【助けて先生】急に歩かなくなった子供【研修医向け】

症例検討
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昨日の夕方からお熱が出て右足を地面に付きたがりません
踵が痛いんでしょうか?

研修医
研修医

怪我してないし・・・

インフルエンザで体の節々が痛くなることはあるけど
他に鑑別は・・・

上級医
上級医

一緒に鑑別疾患を考えてみましょう




【症例】急に歩かなくなった1歳6ヶ月児

小児科当直をしているとこのような患者さんが来院されました

鑑別疾患は思いつきますか?

決して「成長痛」なんて誤魔化さないでくださいね

鑑別疾患

まずは感染症とそうでないものにわけて考えましょう

感染性

骨髄炎

関節炎細菌性、ウイルス性、反応性)

蜂窩織炎

など

特に赤文字の疾患は緊急性が高いので必ず考えましょう

非感染性

肘内障(腕を動かさない場合)、骨折

→特に肘内障であれば受傷起点が明確なので問診をしっかりしましょう

例 道路に出そうで危ないから腕をひっぱったところ急に腕を動かさなくなった

腫瘍(脳腫瘍、白血病など)

膠原病(若年性特発性関節炎、SLEなど)

その他 IgA血管炎による関節痛、炎症性腸疾患の腸管外症状など

 

今回は骨髄炎・関節炎に関して知識を深めていきましょう

臨床症状

骨髄炎

仮性麻痺、姿勢異常、跛行などで出現します

関節炎

骨髄炎と比較して局所所見が現れやすい(解剖学的により浅部に位置するため)

新生児、早期乳児では骨髄炎の波及が多い(理由は後ほど解説)

乳児の股関節は所見が現れにくい

・オムツを替えるときに嫌がる

単関節、大関節に多い

・淋菌、髄膜炎菌、サルモネラでは多関節

原因菌とその特徴

骨髄炎と関節炎で起因菌はほぼ同じです

MSMDやCGDといった免疫不全の病気が出てきましたが

骨髄炎の患者さん全員免疫不全の検査を行いますか?

自信がない方はこちらの記事を参照下さい

免疫不全を疑う10の兆候

1)Clin Infect Dis.2016 Jan 1;62(1):75-77

小児の侵襲性GAS感染症のうち約15-30%が水痘の罹患と関与している

2)Pediatrics.2000 May;105(5):E60

水痘感染により、侵襲性GAS感染症の発症リスクが58倍上がる

3) Pediatr Infect Dis.2010;29:639-643

罹患者の96%が 3歳未満の小児、0~4 歳児における頻度は9.4/10 万人とされている

好発部位

骨髄炎

(N Engl J Med 2014;370:352-60より引用)

下肢に多く、長管骨の骨幹端に好発します

関節炎

(Feigin and Cherry’s Textbook of Pediatric Infectious Diseasesより引用)

各種報告を合わせると

膝関節(37%)>股関節(32%)>足関節(12%)>肘関節(10%)>肩関節(4%)>手関節(3%)

下肢に多い傾向にあります

骨髄炎を起こす病態

栄養動静脈(Nutrient artery and vein)から血行性に進入します

骨端(Epiphysis)と骨幹端(Metaphysis)の接合部では血流が遅いため血栓や感染が起こりやすい

感染が起こるとフォルクマン管、ハーバース管を通じて拡大します

皮質→骨膜(Periosteum)の順に進行していきます

18ヶ月未満では架橋静脈が存在し、架橋静脈により成長板を超えて骨端に感染がおよびやすい

さらに皮質が薄く、骨膜も疎なため感染が波及しやすく関節炎を合併しやすい

年齢が上がると皮質、骨膜が厚くなるため感染の波及はしにくくなります

成長板が傷害されると成長に影響をおよぼすため早期診断、早期治療の必要があります

(Feigin and Cherry’s Textbook of Pediatric Infectious DIsease 517Fig55.1,55.2より引用)

検査

単純レントゲン

その他の原因(骨折、腫瘍)の鑑別

骨髄炎の場合、2週間程度で画像所見(透亮像)が陽性となります

関節超音波

関節炎の場合

関節液貯留の判断ができます

・化膿性か否かの鑑別には使用できない

・関節液を認めたら超音波ガイド下に穿刺が可能

骨シンチ

感度 80-100%

単純レントゲンより早期に所見が認められます

身体所見から病変の想定が難しい、多発病変が疑わしい場合に有用

デメリット 被曝あり 鎮静あり

MRI

感度は最も高い 92-100%

周囲組織への炎症の波及も評価できます

蜂窩織炎と骨髄炎の鑑別に有用

被曝なし

デメリット 鎮静あり

Pediatric Diagnostic Imaging,1471-1487.e2

CT

骨髄炎においてはMRIに勝る点はありません

培養検査

血液培養 骨髄炎 陽性率 36-75% 関節炎 40%

→最低2セットは採取したい

(Feigin and Cherry’s Textbook of Pediatric Infectious DIsease、Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases)

関節液培養

陽性率 50-60%

血液培養ボトルに入れるとK.kingaeに関しては感度が上昇する

(Pediatrics. 2005 Aug;116(2):e206-13.)

血液培養ボトルに入れると菌種にかかわらず感度が上昇する

(J Clin Microbiol.2001 Dec;39(12):4468-71)

関節液の評価

白血球50000以上、多核球90%なら化膿性関節炎の可能性が高いです

(Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseasesより引用)

治療

初期治療

関節炎におけるドレナージ

・可及的速やかに必要

・機能予後に直結する

抗菌薬治療

一番多いS.aureusと次に多いGASを考え(その二つで90%程度)

第一選択はcefazolinの点滴投与(100mg/kg/day 分3)

重症度が高い時は抗MRSA薬も検討しましょう

内服への変更

内服変更の条件は以下を全て満たせばOK

・解熱している

・臨床所見が改善している

・炎症反応が正常化している(CRPの正常化)

・内服が可能

血液培養陽性例(菌血症を合併)

・S.aureusであれば最低2週間静脈投与

・心エコーで感染性心内膜炎がないか確認を

内服抗菌薬の選択

Cephalexinは高用量(100mg/kg/day)分4で十分な治療効果が証明されている

(Pediatr Infect Dis J. 2013 Dec;32(12):1340-4.)

治療期間

急性骨髄炎 3-6週
• 黄色ブドウ球菌は4-6週間
• 3週間未満の治療は再発しやすい

関節炎 2-3週間

 

足や腕を動かさない乳児を見たら
骨髄炎、関節炎を積極的に疑う
血液培養を最低2セット採取する
初期治療はS.aureusを中心とした起炎菌をターゲットにCefazolinで治療する
内服抗菌薬への変更が可能になれば積極的に行う

参考文献

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